酒造り風景|大倉本家

酒蔵のある街
かしば見聞

山廃でしか出せない蔵の味。
自家栽培米ひのひかりで仕込んだこだわりの味。

創業以来育んできた技法を守りつつ、
個性ある質のよい酒造りを目指し、
技術の研鑽に励んでいます。

愚直ですが、まっすぐに。

そんな蔵のお酒造りを紹介させて
いただきます。

精米

酒造りの第一歩。
精米歩合は、普段食べている飯米が90~92%なのに対し、
一般的な清酒の原料となる酒米は70~75%、
特定名称の酒となるとさらに削る部分が増します。
金鼓 大吟醸なら 35%まで削ったお米で仕込んでいます。

お米

飯米(左)と
精米歩合50%の酒米

玄米の胚芽や表層部には、タンパク質・脂肪・ミネラル・
ビタミン等の栄養成分が豊富に含まれています。
これらの成分はお酒造りにおいては、
できたお酒の香味のバランスを崩す雑味成分とされています。
精米の目的は、これらの成分を取り除くことにあります。

洗米・浸漬

精米後、数週間の「枯らし」期間を経たお米を大量の水で洗い、ごみやぬかを落とします。
その後、約5分~2時間水に浸して適度に吸水させます。
洗米は寒造りのつらい作業のひとつで、最近は機械化もされていますが、蔵では酒造好適米はほとんど蔵人が手洗いします。洗米中も浸漬時間に含まれる上、お米の種類や品質・粒の大きさ・天候・気温・水温・湿度‥等々によって、吸水加減が異なってくるため、洗米・浸漬はその時その米に応じた細やかな調整が求められます。

お米

目の細かい袋にお米を入れ、半切り桶内で手洗いします。
適度に浸漬されたお米は、翌朝の蒸しにそなえ、水から引き上げて「枯らし」ておきます。

蒸米

お米は昔ながらの和釜と甑(こしき)によって蒸されます。
和釜に水をはり、バーナーであたためて蒸気を起こします。
甑(こしき)内に蒸気が出だしたら、前日から枯らしておいたお米を甑に入れていき、40分から50分かけて蒸米を作ります。

蒸米の出来具合はお酒の良し悪しに影響するため、蒸し加減は釜屋の腕の見せどころ。
蒸しあがったお米は スコップで掘り起こされ、急いで放冷場に運ばれます。
目的の温度まで冷やした後、この蒸米は、麹(こうじ)造りや仕込みの掛け米に使用します。

お米

蒸米の作業風景。冬の冷たい空気の中、白い蒸気が勢いよく立ち上る様は盛大そのもの。同時にどこか懐かしい米の香りがあたりを包み込みます。

※釜屋:お米を蒸す作業の一切を取り仕切る責任者。ほぼ毎日行われる蒸しの作業では、妥協することなく「外硬内軟」の蒸し上げを目指します。掛け米を蒸す作業が終わり、甑を釜から外すことを「甑倒し」といいます。この日は蔵では祝宴もうけます。

お米

蒸し上がったばかりのお米を担いで走り、放冷場へ。
竹廉の上に広げて、相当熱いお米の塊を手でほぐします。

麹

麹はすべて「箱麹法」によって、二昼夜かけて手造りします。
室(むろ)という30℃前後の高温、多湿の清潔な室内で、蒸米に種麹をふりかけ、麹菌が一粒一粒のお米に繁殖するよう丁寧に力をこめてお米を揉み解していきます。
1日目は麹菌の繁殖準備の期間。 
2日目は熱を帯びたお米の様子を伺いながら、繁殖によい環境となるよう6~9時間おきに手を入れて、温度と湿度を調節していきます。

蔵人の熟練の技と感性こそ、麹造りには欠かせません。蔵人は麹の表情を見て、香りや味を確かめ、手で触れることで出来具合を感じるのです。

麹にはお米のデンプンを→糖分に、お米のタンパク質を→アミノ酸に分解する働きがあり、お酒の味や酒質は麹に由来します。
バランスよく旨みのあるお酒をつくるために、麹造りは非常に重要な工程です。

お米

「箱麹法」には
引き込み→床もみ→切り返し→盛り→仲仕事、仕舞い仕事
といった工程があります。
蒸米を35度位まで冷まして室に入れ、床の上に丘状に盛って布で包んでおくことを「引き込み」、2~3時間経ち蒸米の温度が均一になった頃、蒸米を床に広げて種麹を振りかけることを「種切り」と言います。
このあと蒸米はまた丘状に積み、布で覆って保温しておきます。
8~10時間後に蒸米を崩し、塊をほぐしてよくかき混ぜます。
蒸米の中心部と外側の温度を均一にし、空気に触れさせるための作業で「切り返し」と呼んでいます。

お米

2日目になると繁殖も盛んになり、蒸米の温度が上がって来るので、温度調節がし易いように小分けにし、製麹用の箱に移します。これが「盛り」と呼ぶ作業です。
この後も箱の中の蒸米に手を入れ、麹菌の活動しやすい環境を整える作業が続きます。
「盛り」後6~8時間目に行うのが「仲仕事」、さらに6~7時間後に行う作業を「仕舞い仕事」と呼んでいます。

麹

麹によりお米のデンプンは糖分に変えられ、糖分は酵母の働きによりアルコールへと変化していきます。
この後に続く「もろみ」の工程での発酵を順調に進めていく為に、酒造りに適した優良な酵母を育てる必要があり、この工程を酒母または(もと)と呼びます。

酒母は蒸米・麹・水に酵母を加えてつくられ、この中で酵母は数を増やします。この間雑菌の侵入を防ぐために、酒母には大量の乳酸を含ませて酸っぱくしてあります。
「速醸」は最初に乳酸を添加し、安全な環境を整えて造られた酒母です。他方、自然の乳酸菌を取り込みながら、その強い酸性の性質を生かして、雑菌を退治しつつ酵母を育てていく酒母に「生」や「山廃」があります。
蔵のこだわり「山廃仕込み」は「山廃」を用いた、昔ながらの仕込み方法で、酒母完成までに約1ヶ月かかります。

酒母やもろみの工程は、お米がお酒へと様相を変えていく、ドラマチックで見ごたえのある工程です。

お米

松尾様をはじめ、お酒の神様をお祀りしている酒母室。蔵では「二階」と呼んでいます。

お米

山廃を育てている様子。
「山廃」は「生」と異なり、麹の酵素が米を溶かすことを応用して、麹と蒸米を櫂によってすりつぶす「すり」=「山卸」という工程を行いません。 よく言われる「櫂(かい)でつぶすな麹で溶かせ」です。
仕込み初日は、麹から溶け出した酵素液を汲んで蒸米の上からかけ、糖化作用を促進する「汲み掛け(くみかけ)」操作を行います。
翌日から櫂入れし、3日目より暖気(だき)樽や冷管を用いての温度管理が始まります。

もろみ

醪(もろみ)は酒母を大きなタンクに移し、さらに蒸米・麹・水を加えて造ります。この作業を「仕込み」と呼び、4日間かけ3回に分けて仕込みます。(3段仕込み)
仕込む量は回を追うごとに増やしていきます。

・ 1日目→1回目の仕込み。初添(はつぞえ)、添(そえ)と呼びます。
・ 2日目→糖化促進・酵母増殖を十分にさせるために保温し、仕込みを休むこと。
     「踊り」と呼びます。
・ 3日目→2回目の仕込み。仲添(なかぞえ)、仲と呼びます。
・ 4日目→3回目の仕込み。留添(とめぞえ)、留と呼びます。

この3段仕込みは、古くから行われている清酒独特の方法で、雑菌の侵入による品質の低下を防いだり、酵母の勢い(発酵力)を維持するために有効なものです。

当蔵では、これらの工程は「仕込蔵」と呼ぶ部屋で行っています。
仕込蔵の壁の一番厚いところでは 1m弱もあり、内壁と外壁の間には「もみ殻」が入っています。
「もみ殻」は断熱材の働きをしていて、エアコンは使用しなくても、夏の蒸し暑い時期も蔵内は20℃を超えることはありません。
この空間で 蔵人は「もろみ」の声を聞き、表情を見つめながら、ゆっくり時間をかけて丁寧に育てていきます。
それに応えるかのように「もろみ」は、次第に酒へと姿を変えていくのです。

仕込みの後2~3日目から、もろみの表面に泡が出てきます。
耳を澄ますと「シュワシュワシュワ」と発酵盛んな様子が聞こえてきます。
炭酸ガスのツーンと鼻を突く香り。それに続く息苦しさ…。この時、タンクの中に顔を近づけすぎてはいけません!

泡は次第に増え もろみの表面を覆い、タンクの開口部まで膨れてきます。
5日目頃から5~6日間、「高泡」と呼ばれる泡が最高に達する状態が続きます。
もろみの中のアルコール分が多くなると、段々泡は低くなりもろみの表面が見えるようになってきます。
その後、アルコール度数・日本酒度・酸度などが目標とする数値に達すると もろみの出来上がりで、上槽のタイミングを見計らいます。

上槽

上槽1発酵の終わったもろみを搾り、清酒と酒粕を分ける工程を「上槽」といいます。
圧搾機を使い、空気圧で搾るのが一般的なやり方。
もろみを圧搾機に入れ、風味が損なわれないよう優しく圧力をかけて搾ります。

他方、「袋吊り」という方法もあります。
きれいに洗い清めた酒袋にもろみを詰めて 口を縛り、小型のタンクに吊るします。
圧力をかけず「もろみ」の重みで、一滴ずつ滴り落ちるのを待つのです。
こうして落ちた酒の雫(しずく)を、斗瓶(1.8Lが10本分入る容器)で囲います。
機械で搾るよりもきめ細かく、ずっと香りや味わいの表情が豊かです。
本生のため 生きたままの酵母が瓶の中でさらに発酵を続けます。
シャンパンのようにシュワ~ッとくる旺盛な炭酸ガスは、酵母の息づかいが生んだ天然の賜物です。

お米

袋吊り風景。タンク内にピチョーンピチョーンという音が響く様はまるで「水琴窟」のよう。
もろみを押しつぶさず、液化発酵したところのみを囲うことが出来ます。

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